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大阪地方裁判所 昭和60年(行ウ)32号 判決

原告

地名標示振興協会こと

稲葉昭

右訴訟代理人弁護士

高村順久

清水敦

被告

大阪市長大島靖

右指定代理人

増本泰士

永村貴英

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  原告

(一)  被告が昭和六〇年二月六日付で原告に対してした道路占用不許可処分を取消す。

(二)  訴訟費用は、被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

二  原告の請求原因

1  原告は、地名標示振興協会の名で支柱に地名標示板および広告板を取付けた地名標識(以下、「広告付ポール式地名標識」という。)を官有地に設置してきたものであるが、昭和六〇年二月五日被告に対し、原告が設置した別紙物件目録記載の広告付ポール式地名標識二四個(以下、「本件標識」という。)につき、道路占用許可申請(以下、「本件申請」という。)をしたところ、被告は、同月六日原告に対し、本件標識が許可対象物件に該当しないことを理由に、本件申請につき不許可処分(以下、「本件処分」という。)をした。

2  しかしながら、本件処分は裁量権を濫用、逸脱したばかりか、その決定手続にも違法があるから、取消を免れない。

3  よつて、原告は本件処分の取消を求める。

三  請求原因に対する被告の認否および主張

1  請求原因1は認め、同2は争う。

2(一)  本件標識は、その構造、形態等からみて、道路法四五条にいう「道路標識」であり、道路法および道路交通法に基づき定められた道路標識、区画線および道路標示に関する命令(昭和三五年総理府令・建設省令第三号。以下、「標識令」という。)に規定する道路標識のうちの「案内標識」に該当する。ところで、道路標識は、道路交通の安全と円滑を図るため、道路法四五条、標識令四条などの法令に定めるところに従い、道路管理者または公安委員会が設置義務を負い(案内標識については、標識令四条一項により道路管理者が設置するものと規定されている。)、設置義務者以外の者は、道路標識を設置することはできない。したがつて、本件標識は、そもそも道路法上占用許可の対象とはならない。

(二)  道路の占用は、道路法に限定列挙されている物件について道路の本来的機能を阻害しない範囲内で認められる特許使用であり、占用許可を行うかどうかは、道路管理者の自由裁量に属するところ、本件標識は、道路標識に類似するとともに、信号機や既存の道路標識の視覚を妨げる等、道路の効用、道路の美観および交通の安全を阻害し、道路管理上支障となるものであるから、被告は、これが占用許可対象物件に該当しないとして本件処分をしたものである。したがつて、かりに本件標識が道路法にいう道路標識に該当しないとしても、被告のした本件処分には、裁量権の濫用、逸脱または手続の違法は存しない。

四  被告の主張に対する原告の認否および反論

1  被告の主張はすべて争う。

2  本件処分には、次のとおり裁量権の濫用、逸脱がある。

すなわち、

(一)  本件標識は、被告の怠慢により地名表示の不十分な地域に地域住民等の便益を考えて設置しているもので公共性を有するうえ、いずれも信号機や道路標識の視覚を妨げたり、交通の安全を阻害したりするものでないから、許可対象物件に該当することは明らかである。それゆえ、本件標識と同種の広告付ポール式地名標識は近畿地方建設局管内の地方自治体の多くで占用許可を受けている。それにもかかわらず、被告は、本件標識のこうした状況を考慮せずに不許可処分をしたのであるから、本件処分には裁量権を濫用、逸脱した違法がある。

(二)  広告付の道路占用物は、本件標識のような広告付ポール式地名標識のほかに、電柱にバンドで広告板を巻付けた巻付式電柱広告、消火栓の所在を示す標柱に広告板を付加した広告付消火栓標識、バス停の所在を示す標識に広告を付加した電照式バス停標識および自治会標示板に広告を付加したものなどがあるが、被告は、これらのうち広告付ポール式地名標識を除く物件に対しては道路占用を許可しているのに、これと類似する本件標識については、不許可処分をしたものであるから、本件処分は裁量権の行使に際しての平等原則に反し、裁量権を濫用、逸脱した違法がある。

(三)  被告は、本件標識を長年放置してきたところ、昭和五九年一〇月下旬原告に対し、本件標識の支柱部分を民有地に移設するならば、官有地である道路上に突出する地名標示板が一メートル以内である限り、同部分の占用を許可する旨の行政指導をしたので、原告は、右指導に従い、本件標識のうち既に民有地に敷設した分を除くものについて民有地への移設を開始した。ところが、被告は原告に対し、本件標識につき、昭和六〇年一月一四日付で除却命令を、同年二月五日付で戒告を、同月一五日付で代執行命令を順次発し、同月一九日に代執行による除却をした。そして、原告の本件申請およびこれに対する本件処分は、右除却命令直後の同年二月五日および同月六日にそれぞれされたものである。したがつて、こうした経緯に照らすと、被告は、原告が被告の予想に反して迅速に行政指導に従い、本件標識を民有地へ移設し始めたことに慌てた結果、右行政指導を反故にし、民有地への移設がすべて完了する前に強制撤去を行うことを企図し、こうした予断と偏見に基づいて本件処分がなされたものであるから、本件処分には被告の裁量権を著しく濫用した違法がある。

3  さらに、被告は、本件申請がなされるや、その翌日の昭和六〇年二月六日には早くも本件処分をしており、この間本件申請につき許可基準該当性の有無等の検討が十分に行われたとは考えられないから、本件処分はその決定手続過程に瑕疵が存し、違法である。

三  原告の反論に対する被告の認否および再反論

1(一)  原告の反論2冒頭部分は争う。

(二)  同(一)のうち、広告付ポール式地名標識について道路占用許可をした地方自治体があることは認め、その余は争う。これら占用許可を与えた地方自治体も新たな許可はしておらず、既に占用許可を与えた物件についても撤去の方向での行政指導をしている。

(三)  同(二)のうち、被告が巻付式電柱広告、広告付消火栓標識および広告付バス停標識について、道路占用許可をした例があることは認め、その余は否認ないし争う。被告は、右の各物件についてはそれぞれ許可基準を定めており、これに適合するものについて占用許可を行つてきたものである。

(四)  同(三)のうち、被告が昭和五九年一〇月ごろに原告に、本件標識を民有地に移設するよう行政指導したこと、本件標識につき昭和六〇年一月一四日付で除却命令を同年二月五日付で戒告を、同月一五日付で代執行令書を順次発し、同月一九日に代執行による除却をしたことはそれぞれ認め、その余は争う。被告は、本件標識につき昭和五九年九月ごろから原告に対し、事情聴取と撤去勧告を行つてきた。そして、この間数回にわたり原告に対して本件標識を道路の区域から移動させるようにとの行政指導をしたにもかかわらず、原告が本件標識を撤去しなかつたので、代執行による除却を行つたものである。

2  原告の反論3は争う。

五  証拠関係〈省略〉

理由

一請求原因1は当事者間に争いがない。

二本件処分の適否

本件処分の適否について判断する。

1  〈証拠〉、昭和六一年八月一日に本件標識を撮影した写真であることに争いのない検乙第一号証、被写体について争いがなく、原告本人尋問の結果によりいずれも原告がその主張日時に撮影した写真であることが認められる検甲第五号証、証人泉覃雄の証言ならびに原告本人尋問の結果(一部)を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  原告は、地名標示振興協会の名で広告付ポール式地名標識を主な交差点周辺の官有地に設置してきたものである(この点は、当事者間に争いがない。)。この広告付ポール式地名標識は、直径七六ミリメートル、高さ3.5ないし3.8メートルの亜鉛メッキ鋼管製の支柱に縦0.56メートル、横0.92メートルの地名標示板および縦0.43メートル、横0.92メートルの広告板を取付けたものであり、その形状は別紙図面記載のとおりである(もつとも、本件標識中には、右地名標示板と広告板が上下逆に取付けられているものもある。)。原告は、ほとんどの場合この広告付ポール式地名標識を設置する際、付近の業者等(もつとも、本件標識の中には三〇〇メートル離れた業者もある。)から掲載の合意を取付け、広告料名下に一定の金員を徴収していた。

(二)  被告の土木局管理部路政課では広告指導係を設置し、大阪市内の屋外広告物の規制、違反広告物の排除および広告物に関する道路占用許可等の事務を行わせているところ、広告物に関する道路占用許可に際しては、それぞれ建設省の通達にのつとり、電柱広告、アーケード添加看板、消火栓標識添加看板、電照式バス停標識添加看板および突出看板である工作物については、道路管理および都市美観の見地からそれぞれ規則を制定し、この中で占用物件の設置目的や構造などに応じた許可基準を設定し、許可申請のあつた占用物件に対しては、各許可基準への適合性を判断のうえ、その許否を決定している。これに対し、広告付ポール式地名標識については、規則の定めはないものの、これが外観上道路標識に類似していることから、被告は信号機や既存の道路標識の視覚を妨げるか否か、支柱の倒壊の危険性の有無などの交通の安全性に加え、公共性、計画性および美観を総合的に評価する許可基準を独自に設定し、右規則による規制を受ける物件と同様の判断過程により、その許否を決定している。

(三)  被告は、昭和五八年ごろから昭和五九年ごろにかけて、大阪市内に存在する標識等の道路占用物件の調査をした結果、本件標識を含む広告付ポール式地名標識が占用許可を受けずに多数道路上に設置されていることが判明したので、右調査結果に基づき内部検討をしたが、これらにつき占用許可を与えられないとの結論に達したので、昭和五九年九月ごろから原告を含め、これらの広告付ポール式地名標識を設置した業者に対し、これらが占用許可を与えられない物件である旨申向けるとともに、四か月間の自主撤去期間を設けて自主撤去するよう行政指導したところ、原告からいかなる要件を満たせば許可されるのかについての指導を求められたので、支柱を民有地に移設し、右標識が媒体ではなく当該民有地の所有者または利用者が自己を表示または宣伝した標示(以下、「自家用」ともいう。)であれば、当該標識部分の官有地への突出が一メートル以内である限り許可する旨の行政指導をした。

しかし、原告は、本件標識の一部につき支柱を民有地へ移設したものの、広告部分の標識は取外さず、自主撤去を求める右指導に応じなかつたことから、被告は、昭和六〇年一月一四日付で本件標識につき除却命令を発した(被告が右除却命令を発したことは、当事者間に争いがない。)。これに対し、原告は同年二月五日本件標識につき本件申請をしたが、被告は右調査のうえ既に許可基準適合性を検討して同基準に適合しないとの判断に到達していたことから、同月六日本件標識が許可対象物件に該当しないという理由で本件処分をし、同月一五日付で代執行令書を発し、同月一九日に代執行により本件標識を除却した(原告が本件申請をしたことならびに被告が右理由で本件処分をしたことおよび右代執行令書を発し、右代執行により本件標識を除却したことは、当事者間に争いがない。)。

以上の事実が認められる。

なお、原告は、本件標識の占用が許可されるための要件につき被告に行政指導を求めた際、支柱部分を民有地に移設したうえ標示板の官有地への突出が一メートル以内であれば、本件標識が自家用であるかどうかにかかわりなく占用を許可する旨の被告の行政指導があつたと主張し、原告本人尋問の結果により成立を認めうる甲第五号証、録音テープであることに争いがない検甲第七号証および原告本人の供述中には、右主張に沿う記載および供述部分が存在する。しかしながら、原告本人の右供述は証人泉覃雄の証言に照らし採用できず、また、前記甲第五号証、検甲第七号証および原告本人尋問の結果によると、前記甲第五号証は、昭和六〇年二月五日に原告が大阪市土木局において被告担当職員泉賈雄との会話の一部を同人の事前または事後の了解を得ずに無断でマイクロテープにより録音したものの反訳書であるが、その前の会話部分は、単に本件と無関係であるとの理由から提出されていないことおよび原告の会話の中には、録音していることを意識してほぼ一方的に自己の意見を表明しているものとうかがわれる部分が存することが認められ、このことに証人泉賈雄の証言に照らすならば、こうした記載が存在するからといつて直ちに被告が原告に対し、原告主張の行政指導をしたものと認めることはできない。そして、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。したがつて、原告の右主張は採用できない。

2  ところで、道路法は、道路に一定の工作物等を設け、道路を継続して使用しようとする場合には、道路管理者の占用許可を必要とする旨規定し(同法三二条)、占用許可をなしうる場合につき厳格な基準を定め(同法三三条)、占用許可を得ずに道路を占用した場合には、懲役刑を含む罰則の規定を置いている(同法一〇〇条一号)が、これは、道路が直接一般交通の用に供され、国民の日常生活に不可欠な公物であるという点において高度の公共性を有するところから、道路の一部を道路以外の目的に使用させることは、特別の必要がある例外的な場合に限り認めることとし、その許否の判断を道路の管理権限を有する道路管理者の専門的、技術的裁量に委ねたものと解すべきである。そうすると、道路法三二条の占用許可をするかどうかは、道路の状況を把握してこれを管理する道路管理者が道路の公共性および秩序維持の見地から、当該占用が同法三三条所定の占用許可基準に適合するかどうかを総合的に判断して決する裁量に委ねられていると解すべきであるから、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるとして、違法とはならないものと解するのが相当である。

そこで、これを本件についてみるのに、本件標識の形状および設置目的は前記認定のとおりであるうえ、証人泉賈雄の証言および原告本人尋問の結果によると、原告は、公共公物である道路の交通体系やその特性、さらには道路構造を保全し、道路交通の安全と円滑を図るために道路管理者が整備する道路標識とも無関係に、単に地名を標示してわかりやすくするとの理由から一定の基準もなく設置していることならびにその設置に当たつても当該標識の安全性または設置場所の地下埋設物に対する専門的、技術的知識を有しておらず、単に原告の経験上地下埋設物が存在しないと考えられる箇所を約一メートル程度掘削するという方法を行つており、これらに対する配慮に欠けるところがあることが認められる。結局これら諸般の事情を合わせ考えると、本件標識はこれを全体としてみるならば、道路標識に酷似しているとともに、信号機や既存の道路標識の視覚を妨げたり、道路交通体系に混乱を与えるなど、道路の効用、美観および交通の安全を阻害し、道路管理上支障を与えるものといわざるをえないから、これが占用許可の対象にあたらないとしてなされた本件処分には、裁量権の濫用はない。

なお、原告は、本件標識は個々的にみると信号機や道路標識の視覚を妨げるものではないから、これに基づき不許可処分をすることは裁量権の濫用にあたる旨主張するが、交通の安全性は、右視覚のみを基準としているのではないうえ、本件処分は、その他公共性、計画性および美観といつた要件を総合的に評価して不許可の結論を出しているのであるから、かりに本件標識のうち個別的にみて信号機や道路標識の視覚を妨げないものが存するとしても、そのことをもつて本件処分に裁量権の濫用があるといえないことは明らかである。また、原告は他の地方自治体では、本件標識と同種の広告付ポール式地名標識について占用許可がされた例があるから、本件処分は裁量権の濫用がある旨主張し、こうした標識につき占用許可の行われた地方自治体が存することは、当事者間に争いがない。しかしながら、道路の状況ならびに道路に対する規制の必要性および態様は地方自治体ごとに異なるものであり、占用許可についても当該道路管理者が対象となる道路の状況に応じそれぞれの裁量に基づきこれを行うものであるから、右広告付ポール式地名標識を許可した地方自治体があるからといつて、本件処分が直ちに違法となるものではないうえ、いずれも成立に争いのない乙第五号証の一ないし一二および第七号証、証人泉賈雄の証言およびこれにより成立の認められる乙第六号証によると、前記広告付ポール式地名標識については、東京都および大阪市を除くすべての政令指定都市をはじめ、数多くの地方自治体においてこれを許可しておらず、これを許可した地方自治体のうち、少なくとも兵庫県相生市、同県竜野市および山口県下関市では、新規の許可申請に対しては許可を与えず既存の物件についても行政指導により撤去を求める方向で対応していることが認められる。したがつて、原告の右主張も採用できない。

3  なお、原告は、さらに次のとおり本件処分が違法である旨るる主張するので、この点について判断する。

(一)  原告は、被告が巻付式電柱広告、広告付消火栓標識および広告付電照式バス停標識などについては道路占用を許可しているのに、これらと類似する本件標識について不許可処分をしたことは、理由のない差別的取扱であつて、平等原則に違反し、裁量権の逸脱、濫用があると主張する。そして、これらの物件について被告が占用を許可した例が存在することは、当事者間に争いがない。

しかしながら、本件標識を含め、これらの物件は占用許可の対象となる物件であるという点においては共通点を有するものの、その形状または占用の態様などはそれぞれ異なつているから、これらが道路の効用に及ぼす影響も同一ではない。それゆえ、被告は、前記のとおりこれらの差異に基づき、物件の種類ごとに個別に占用許可基準を設け、それぞれの許可基準に従い、許否を決しているのであるから、右電柱広告等につき許可が与えられたとしても、本件標識につき当然許可が与えられるべきことにはならず、結果的に取扱が異になつても、なんら平等原則に反するものではない。また、前記認定のとおり、被告は、本件標識と同種の広告付地名標識を設置したすべての業者に対して一律に占用不許可を前提とした共通の行政指導をしているのであるから、右指導がことさら原告を差別的に取扱い、不利益を及ぼしたものともいえない。

したがつて、原告の右主張は採用できない。

(二)  原告は、本件処分は、被告が原告に対し、本件標識を民有地に移設したうえ官有地への標示板の突出部分が一メートル以内であれば、右突出部分につき占用を許可する旨の行政指導をしたにもかかわらず、後日これを反故にし、民有地への移設がすべて完了する前に強制撤去を行うことを企図し、こうした予断と偏見に基づいてなされたものであるから、裁量権を濫用した違法があると主張し、原告本人の供述中にはこれに沿う部分がある。

しかしながら、被告のした右行政指導が原告の主張するものでなかつたことは前記認定のとおりであるから、原告の右主張はその前提を欠くうえ、前記のとおり、原告は被告による再三の勧告にもかかわらず、合理的な期間を経過したのちも本件標識の官有地からの自主撤去を完了していなかつたのであるから、被告が原告の民有地移設の完了前に強制撤却することを企図したからといつて、それが被告の予断と偏見に基づくものとは到底いえない。

したがつて、いずれにしても、原告の右主張は採用できない。

(三)  原告は、被告が本件申請の翌日に早くも本件処分をしていることから、被告は本件申請につき許可基準該当性の有無等を十分に検討をしないまま、本件処分をしたものであるから、本件処分はその決定手続過程に瑕疵が存し、違法である旨主張する。しかしながら、前記のとおり、被告は、原告に対する行政指導を開始した昭和五九年九月ごろには、それまでの調査結果に基づいてすでに本件標識につき、その許可基準に照らして、占用許可の対象とはなりえないとの結論に到達しており、昭和六〇年一月にはすでに原告に対し、除却命令まで発していたのであるから、本件申請当時本件標識につき占用許可を与えられないとの被告の結論は確定していたというべきである。そうすると、その翌日に本件処分がされたからといって、被告において当該許否についての十分な検討をしていないとはいえないから、本件処分の決定手続過程には原告の主張するような違法は存しない。

したがつて、原告の右主張は採用できない。

4  以上のように、本件処分は、適法であるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の主張は理由がないというべきである。

三よつて、原告の本訴請求は、理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官川口冨男 裁判官田中敦 裁判官古財英明)

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